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1973年のピンボール [小説レビュー]

1973_pinball.jpg「1973年のピンボール」(村上春樹)※講談社文庫

東京で事業を始め、双子の女の子と同棲し、配電盤を貯水池に沈める僕。地元に残り、相変わらずジェイズバーでビールを飲み、年上の女性と付き合い始める鼠。すれ違わない二人の生活は、いつまでもそのまま続くかと思われたのだが・・・・。

村上春樹の青春三部作の第2弾。第1弾の「風の歌を聴け」を酷評してしまったが、何故かこの「1973年のピンボール」は結構心に沁みてしまった。買った当時(「風の歌を聴け」にも書いたが20年前)に読んだ時は大して記憶に残らなかったのだが。

大体ワタシはロマコメ好きオヤジを標榜しているので(大して見てないけどw)、ラブストーリーは大好きなのだ。やっぱり青春時代をモテずに終わったので(汗)、多分その反動だと思うんだけど。でご多分に漏れずハッピーエンド大好きな人間だったりもするんだが、それは今回は置いといて・・・・。

村上春樹の小説では当然ラブストーリーも語られる訳だが、その権化のような「ノルウェイの森」はとても切なくよく出来ていたと思うのだが、「風の歌を聴け」では今イチツッコミ不足だった気がする。僕と彼女の関係性がうまく描かれていない。

この「1973年のピンボール」では、僕の恋愛劇はほとんど描かれない。双子の女の子とはセックスをしているのかどうかもハッキリと書かれていないし、「羊をめぐる冒険」まで通しで読まれた方はご存知の通り、将来の奥さんとの関係性も中途半端な形でしか出て来ない。それは当然、僕とピンボールとの関係性が疑似恋愛として描かれていく事を強調するためなのは明らかだ。

とは言えピンボールとの恋愛劇に、人は共感を感じられるものだろうか?少なくともワタシにとっては否だ。だから昔読んだ時は今イチ焦点の定まらない作品として、記憶に残らなかったんだと思う。

それが今回はなんで心に染み入って来たかと言うと、鼠とその彼女に感情移入してしまったからだ。「太郎物語 高校編」のレビューにも書いた通り、従来どうしても主人公一辺倒だったワタシの視点が、脇役たちにも届くようになったからだろう。今作では僕と鼠は全く絡む事なく終わってしまうので、僕目線で物語を見ていると、鼠の描写が全くの肩透かしで終わってしまう感がある。

でも鼠の物語(ココは村上春樹にとっては珍しく第三者目線での描写だ)だけを取り上げて見てみると、青春のもがきと切ないラブストーリーが描かれていて良いんだなぁ。特に彼女の存在感がとてもよい。鼠が感じている思慕の情と、そこから逃れざるを得なくなる自分自身との葛藤がとても切なかった。

という事で今作はなかなか楽しく読む事が出来た。この後、衝撃的な「羊をめぐる冒険」へと繋がっていくのだが・・・・・これまた近々レビューしましょうね。


1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1983/09
  • メディア: 文庫

タグ:村上春樹
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