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羊をめぐる冒険 [小説レビュー]

hitsuji_man.jpg「羊をめぐる冒険 上・下」(村上春樹)※講談社文庫

広告の仕事で出会った、美しい耳を持つ女の子と付き合っている僕は、突然訪ねてきた男に言われて写真に写っている羊を探すハメになる。その写真は友人の鼠が送ってきたものだった。

※ネタバレあります。未読者注意!

青春三部作完結編(?)となる今作は、消えた鼠を僕が追う話となった。そして、ここに来て村上ワールドは急速にファンタジー要素を強めて行くのだ。それが良かったかどうかは分からないが、以降村上春樹の作品は(「ノルウェイの森」を除き)どこかにファンタジーが入って来るようになる(らしい)。

逆に前作までが無国籍な雰囲気に支配されていたのとは裏腹に、北海道の奥深くへと立ち入って行く“冒険”は、北海道らしいかどうかは別として、日本(アイヌ?)土着の雰囲気をそれなりに醸し出し、前述のファンタジー要素を含めて、前2作とは明らかに空気感が異なる作品となっている。

それにしてもこの作品は、なぜ上下巻になるようなボリュームの作品になってしまったんだろう。取りあえず今作は謎の提示があって、その回答を得る旅が描かれるわけだが、それにしても中盤がグダグダ過ぎる。きれいな耳の彼女の話が長めなのは、その後の羊をめぐる探偵ゴッコとの相似形にしているので仕方ないにしても、村のあれこれは読んでても面白くないし、伏線にもなっていない。雰囲気作りならもっと短くていいんじゃないか?

耳の彼女(w)との別れにしても、唐突この上ない。伏線もないし、単なる尻切れとんぼだ。ワタシはてっきり、町で待ってるなどの展開かと思ったのだが・・・・。恋愛部分に関しては、またもやこの作品では裏切られてしまった。

考えてみると「ノルウェイの森」含めここまで読んで来た村上作品では一人称の人物の心理描写ってほとんどない。だから青春三部作での僕の恋愛劇は何の感慨も与えない。「1973年のピンボール」の鼠の描写は三人称視点だったから心のひだが描かれていたのだろう。「ノルウェイの森」は周囲とのやり取り(手紙も含め)でワタナベの心理があぶり出されるようになっていたように思う。

ただ、今作のクライマックスでは僕と鼠との決別が描かれている。「風の歌を聴け」からここまで付き合って来たこの二人の関係が、終わってしまうのかと思うとちょっと胸に迫るものがあった。それは「1973年〜」で鼠に感情移入してしまったという事実があるから余計に感じたのだと思う。初読だった昔には、それほど感慨を受けた印象はやはりない。

とはいえやっぱりこの作品、内容の割には長過ぎるよなぁ・・・・。


羊をめぐる冒険 (上) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険 (上) (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/10
  • メディア: 文庫
羊をめぐる冒険 (下) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険 (下) (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/10
  • メディア: 文庫

タグ:村上春樹
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コメント 2

意匠太郎

話が長くなってるのは、羊博士の半生に関わる部分のせいかな。

でも、この流れを詳細に書かないと「羊」とは何ぞや?が伝わらないから、
自分的には上下巻で良かったと思うよ。
だから、グダグダとは思わない。だって「羊」の話なのだから。

でも、ジェイズバーのくだりからのラストはせつなかったね。
自分的には羊三部作は大好きです。

次は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」をレビューしてね(笑)
by 意匠太郎 (2011-02-06 05:18) 

tomoart

>意匠太郎さん
ワタシ的には中盤はグダグダとしか評価出来ないけどねw 大体村上春樹の小説って、どうも書きたいようにズラズラ書いてる印象があるから、基本がグダグダなんだよなぁ。ま、それがいいところでもあるんだけど、ハマらないとグダグダ感だけが残ってしまう。今作はその典型。だからワタシは20年前、この本で村上春樹は止めたんだよね。
ワタシが持ってる村上春樹作品は、あとは「海辺のカフカ」しかないんだけど・・・・(笑)。
by tomoart (2011-02-08 02:35) 

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