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ノルウェイの森 [邦画レビュー]

336172_004.jpg「ノルウェイの森」(監督:トラン・アン・ユン)

1960年代末、東京の大学は学生運動に揺れていた。その中で大学生のワタナベ(松山ケンイチ)は読書を糧に、学生運動とは無縁の生活をしていた。彼は高校時代に親友のキズキ(高良健吾)を自殺で失っていたが、ある日そのキズキの恋人だった直子(菊地凛子)と再会する。キズキの喪失はお互いにとって大きすぎ、それについて一言も交わせないままに二人は逢瀬を重ねる。そして直子の20歳の誕生日。二人はついに結ばれるが、直後に直子は転居してしまう。大きな傷を負うワタナベだったが、相前後して不思議な雰囲気を身に纏った同級生・緑(水原希子)に声をかけられるのだった。

うーん、どう消化していいのか・・・・判断にとても苦しむ作品。魅力がないわけではないが、どうも違和感がある。映画としてもちょっと破綻気味。上下巻の文庫本を133分にまとめるというのだから、話が破綻するのは当然だけど・・・・。

ワタシは原作は結構好きな方なのだが、長めの作品ゆえ大して再読はしていない。お陰で断片は覚えているが、ほとんどのところが薄らボンヤリとしか覚えていない。ただ感触は心に残っているので、どうもこの映画作品との雰囲気の違いが気になる。

ワタシの原作のイメージはとても静かなものだ。今の時代では考えられないような生真面目な登場人物たちが、様々な事に出会い、戸惑い、折れ、または再生していく、青春の痛みが描かれた原作。だが基本的にワタナベの一人称語りの本であり、ワタナベの淡々とした語り口が、余りにも激烈なストーリーをオブラートで包んでくれて、それによってどんなに感情が真に迫って来ても、読んでいるこちらは平静な気持ちで受け止められるようになっていた。

ところが映画の方は表向きは静かな作品のような顔をしているが、実は結構饒舌だ。それは駆け足で話の筋を追っているから忙しい、ということもあるし、編集もかなり乱暴なところがある。そして音楽がやたらと主張している。それも弦楽器系のややヒステリックな曲調が耳に残った。(ビートルズの「ノルウェーの森」も、流れてみれば今イチこの作品に合わないような気がするのだが。)

演出もその辺りにムラがあるような気がした。日常は割と他人事的に平板に描かれるのだが、ここという時にどうしても顔のアップが、それもドアップが出て来る。そうなるとどうしても他人事では済まなくなってしまう。ワタナベのアップはまだいいが、直子や永沢(玉山鉄二)、果てはハツミ(初音映莉子)のアップまで出て来ては、画面から受ける印象が散漫にならざるを得ない。本当はワタナベの語る物語のはずなのに・・・・。

俳優的には、やはり菊地凛子が厳しいところ。演技はいいとしても、松ケンと並んだ時に違和感が(汗)。というか、直子ひとりだけが生々しいのだ。ワタナベ、緑、永沢、ハツミ、レイコ(霧島れいか)までが基本的に美形で、映像では更に作ってつるんとした顔立ち、ペッタリした髪型など、時代背景も加味しているが、作り物かと見まごうような姿で出て来る。それに対して直子ひとりがそういった部分を超越してしまっている。

これはもしかしたら意図的なのかもしれないが、それにしてはそういった事が作品内で大して役に立っていないのがおかしい。やはり菊地凛子自身の役作りなのか、個性なのか、そういったものがこの画作りの中からはみ出てしまったように思えてならない。

緑というもう一人のヒロインがワタナベと同じ世界を生きる存在として魅力を発揮するのであれば、本当ならば、直子は違う世界を生きる存在としてもっと魅力的に描かれなければならなかったはずだ。しかし、残念ながらワタシには、緑はとても魅力的に見えるが、直子の魅力はほとんど伝わって来なかった。ワタナベと直子は同じ傷をもつ身として本能的に惹かれていくわけだが、その辺りも全く描かれないし。小説ではわからない、血肉をまとった存在としての直子をどう魅力的に見せるか、という事にもっと注意深くてよかったのでは、と思う。

原作読んでなかったら話分かんないんじゃないかと思うようなダイジェスト感や唐突な展開はもう見逃そうw 日本人監督では描けない不思議な日本の風景の美しさなんかはとても良かったし、時代の空気感もなかなか良く出ていて(ファッションによるところが大きいかも)ノスタルジアもかき立ててくれる。松ケン始め上に書いたように皆美しい姿で登場するのでその点でも目にも綾。カットカットはとてもよく出来てて美しい。特に水原希子の口角にワタシはシビレた(爆)。大きめの口だがとても美しいw 松ケンに比べても小顔でスゲー。(という事でヘッダーの写真は緑w)

ただ、残念ながら松ケンのナレーションはいただけなかった・・・・。声質もあんまり良くなくて、それも雰囲気ぶち壊しだった気がする。音楽と併せて、音の面がダメだったなぁ。


原作、もう一度読み返そうかなぁ・・・・。
ノルウェイの森  上下巻セット (講談社文庫)

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  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/11/05
  • メディア: 文庫
※〈追記〉原作レビューしました。こちら

音楽だけで聴けばいいのかなぁ・・・・・。
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コメント 4

mihokanaeda

tomoさんのレビューはいつも「そうそう!」とうなっちゃいます〜

私は最近「バーレスク」と「トロンレガシー」みにいきました。

「コヨーテアグリー」を彷彿とさせる「バーレスク」、
個人的にはとても楽しめました!

来年も沢山のレビュー、楽しみにしてます!

by mihokanaeda (2010-12-31 16:03) 

tomoart

>mihoさん
どもども。ありがとうw 「バーレスク」話題ですね〜。「トロン:レガシー」も行ったんだ。あれはまぁ、話題としてはアリだけどw
来年はもっとレビュー出来るかな?一週間一本のペースになっちゃうなぁ。

よいお年を!
by tomoart (2010-12-31 18:46) 

み〜ちゃん

映画の方もレビューがあるって教えてもらったので
探しにきちゃいました(V)o¥o(V)

tomoartのコメント納得しちゃいました!
映画だけだと厳しいみたいですね
私もどう消化していいのかって思いました(^_^;)

菊地凛子と松山ケンイチのカップルの違和感って
私だけじゃなかったんですね…
by み〜ちゃん (2011-01-18 21:41) 

tomoart

>み〜ちゃんさん
nice!&コメントありがとうございます。わざわざサンキューですw そうですね、話は駆け足だし、それでも説明不足だし、トラン・アン・ユン監督はストーリーをどうしたかったのかがちょっと見えませんでしたね。もっとイメージチックならあきらめもつくし(笑)、逆に大胆に組み換えて映画としての物語を構築するという王道のやり方もあったと思うのですが、何となく原作のストーリーを追うばかりで、物語を語る事を諦めたような感じを受けてしまいました。残念。
菊地凛子は元々嫌いじゃないんですが、こうアップが多い作品だと、なまじ他の人が美形揃いなので苦しいですね(笑)。スゴい日本人顔だもんねぇ・・・・。
by tomoart (2011-01-19 09:14) 

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