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落下の王国 -The Fall- [洋画レビュー]

wolverinepostersmall.jpg「落下の王国 -The Fall-」(監督:ターセム・シン)

1915年アメリカ。映画のスタントマンをしていたロイ(リー・ベイス)はスタント中の事故で病院に運ばれた。幾度かの手術の末、元気になったロイは、自分が下半身不随になってしまった事を知る。折からの失恋もあり、自殺を考えるロイ。
一方、同じ病院には5歳になる少女・アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)が、オレンジ収穫作業中に樹から落ち、腕を骨折して入院していた。アレキサンドリアと知り合いになったロイは暇を持て余していた事もあり、少女に作り話を語って聞かせる。それは、個性溢れる6人の男たちがオウディアス王に立ち向かう、愛と復讐の一大叙事詩。物語に引き込まれ、毎日枕元にやって来ては続きをせがむアレクサンドリア。作り話を語りながら、いつしかロイは彼女を使って、薬品室内の毒薬を手に入れる事を画策し始める・・・。

念願の「落下の王国」がやっと観れたw 観た感想は・・・『愛すべき失敗作』って感じかな(笑)?観る劇場を選べなかったのが一番の問題だったかも。ちなみに関東で現在観られるのは三軒茶屋中央劇場だけである。ワタシは初めて行って仰天したのだが、言ってみれば「私立探偵濱マイク」に出て来る横浜日劇と同列な感じの劇場だ。その味のある劇場施設(なにせ無音時にも細かいノイズ音がシ〜・・・って聞こえるような施設)はワタシは決して嫌いではないのだが、壮大な景色を切り取りまくった美しい宝石のようなこの作品を観るにはちょっと不適切だったかもしれない・・・・。

この作品、物語を語るべき映画としてはかなーり問題がある。特にクライマックスに向かう中でのロイの心の動きがワタシには納得出来なかった。(『泣きながら』『物語の登場人物を殺していく』行為が彼の心の中のどこからやって来たのか・・・・掴めなかったのはワタシだけ?)

しかし、この映画の白眉はやはり映像だ。ターセムは前作「ザ・セル」でも非常に凝った美術センスを披露してくれたが、今作ではそれとも全く違うアプローチで感動的ですらある映像を撮っている。
前作は深層心理の中の映像化で完全なセット撮影だったが、今作は逆に物語の映像化に完全オープン撮影を使った。その為にものすごいロケを行っている。メインで行われたロケ撮影だけでも南アフリカ、インド、フィジー、バリ、ナミビアの5ヶ所。それ以外にも細かいロケ撮影を積み重ねてこの作品の映像は作られている。それは例えば「007」シリーズの主要都市やリゾート地を巡る各地ロケとは全く違う。自然の風景や独特な建築物、遺跡などの、一般人ではなかなか辿り着けそうもない地を対象にしたロケだ。これぞ本当の『地球の風景のいいとこ取り映画』だ!w それに合わせて撮影も、絞り込みと遠景の多用でほぼ全ピン撮影が行われているようだ。お陰で映像が非常にクリア。それは余りの壮大な風景と相まって、逆にCG映像かと見紛うほどのクリアさだ。
そしてその素晴らしいクリアな風景に登場する登場人物たちは必然的に素晴らしい存在感が必要になった。ボケのない背景に登場するキャラクターは、存在感がなければ風景に埋没してしまう。そして、その存在感の演出に大きな貢献をしているのが、前作でも素晴らしい衣裳を提供した石岡瑛子。語られる物語に登場する主要なキャラクターたちの衣装は、素晴らしいの一言。また無名な役者たちが演じた人物たちだからこそ、衣装の存在感が際立ったのかもしれない。それも衣装に着られている訳ではなく、ちゃんと一体感のある存在として見えるのがスゴいのだ。つまり、役者自身の発する存在感を、衣装が大幅に引き上げているのだ。この辺り、さすがなんである。

ところでこの作品の構造はさながら荘子の「胡蝶の夢」。いかにこの世に『現実』がいくつもあるのか、という事を考えさせられてしまう。
この作品では病院という辛い現実と、素晴らしい風景を舞台にした劇中劇という二つの世界が出て来る。観客はアレクサンドリア同様、殺伐とした現実世界の話を観る事で一層、劇中劇に傾注してしまう構造だ。ところで劇中劇は一体『何の映像化』だとアナタは思うだろうか。ワタシには、この劇中劇の映像化には明確な視点があるように思う。
これは多分、アレクサンドリアの想像している物語の映像化だ。だからこそ彼女の知人達が登場する訳だし、それが殺されれば物語上とは言え彼女は心揺すぶられてしまう訳だ。オウディアスの手下どもは、彼女が見たレントゲン技師の姿そのものだ。何より、だからこそカッコいい黒山賊は彼女の大好きなロイだし、最後にヒロイン役は彼女がなるのだ。そして前向きに生きる姿勢を持っている彼女だからこそ、あの美しい映像で物語が表現されたのだろう。そして、それを感じ取ったからこそロイは少しだけ生きる事に向き合う気持ちを持つ事になった。
そしてその図式がラストシークエンスに繋がっていく。ラスト、アレクサンドリアはロイが元気になった姿を『見る』。アレクサンドリアにとっては、ロイは怪我が治って大活躍している事が現実なのだ。しかし観客はそうでない事を知っている。でもその現実は描写されない。それはつまり彼女の感じている現実こそがこの作品の現実という事なのかもしれない。

三軒茶屋中央劇場

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あきら

これ私もまだみていません。愛すべき失敗作。なかなかですね。
でも機会があったら見てみたいです。
by あきら (2009-02-10 00:48) 

tomoart

>あきらさん
ども。早速のnice!&コメントありがとうございます。
見る時はぜひBlu-rayでどうぞw 少なくとも三茶中劇での鑑賞はお薦めしません(汗)。何でこの映画館がよりによってこの作品を上映に選んだのか、どう考えても腑に落ちません・・・・。
by tomoart (2009-02-10 01:56) 

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