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河童のクゥと夏休み [邦画レビュー]

41oUHd9SOpL._SS500_.jpg「河童のクゥと夏休み」(監督:原恵一

東京の東久留米市に両親と妹の四人家族で住んでいる極々普通の小学生・上原康一は、ある日近所の川原で奇妙な亀の化石を発見。帰って水で洗ってみると、それは化石ではなく河童の子供であった。大変弱っていたその河童を、一家で取り敢えず面倒をみる事にする。数日で河童はだいぶ復活し、歩いて話せるようになる。名前が思い出せない河童に、康一は『クゥ』と名前を付け、内緒の友達となるのだった。

多分、大多数の方(特に大人)は”退屈な作品だろうな”と思っているだろうが、全然そんな事はない。この作品は子供が観れば子供なりに面白いと思うが、大人が観ても別の魅力があって、様々な年代が同時に楽しめるようになっている。
簡単に言っちゃえば『シミュレーション』作品と言えるだろう。「ガメラ大怪獣空中決戦」や「ULTRAMAN」と同様に、現実世界に異質なモノ(今回は”河童”)が現れた時、いったいどうなるのか、という事を語って行く。2時間18分という上映時間は、それだけを聞くとずいぶんと長いように思うだろうが、作品を見終わった時、それだけの時間が必要だった事がすんなりと納得出来るだけの内容を持っている。それほどに念の入ったシミュレーションがされているという事だろう。お陰で最初は掌にのるような小さな世界の話だったものが、クライマックスでは日本中で大騒ぎになるようなものになって行く様を無理なく描いている。

その中で具体的に描かれるのは、家族内での嫉妬から始まって、子供社会でのイジメ、近所付き合いでの噂話、マスメディアのスクープ合戦と取材合戦など、相手の事を考えない興味本位の人間社会の恐ろしさ。
些細なきっかけで始まる子供のイジメ。マスコミの報道のヒートアップして行く姿の醜さ。そういった、今の社会の抱えている問題点が丁寧な描写によって浮き彫りにされて行く。
ここで本当に恐ろしいと思うのは、上原家とクゥを踏みつけにして追い込んで行く人たちのほとんどに悪意がない事だ。康一の友人たちは、自分たちだけには河童を見せて欲しいという誰でも言うだろう要望を満たされない事で、康一から離れて行ってしまう。マスコミ各社の取材班たちはみんな普通に仕事をしているに過ぎないし、逃げ惑うクゥたちをケータイのカメラで撮ろうと追いかけ回す通行人たちもクゥたちをいじめようなどと言う気は全然なかったはずなのだ。そういった『普通の行動』、ワタシたち誰もがとってしまうだろう行動が上原家とクゥを追いつめて行く。その過程の描写が自然であればあるほど、観ているワタシたちの心に深い印象を残すし、悲しい気持ちを呼び起こす。

しかし、その暗くなりそうな部分を救っているのが、上原家の面々の対応。特にお父さんとお母さんはマスコミにかぎ回られる状態になっても決して塞ぎ込んだり八つ当たりしたりせず、いつもと同じ対応で子供たちに接して行く。この辺りはエンターテインメントとしてのバランス感覚の素晴らしさを感じる。この作品は家族の崩壊や人間の醜さが主題なのではなく、あくまで人と人、人と河童の友情物語なのだ。皮肉に満ちた視線で描かれる現代社会の暗部も、物語上では友情を確認するための高い高いハードルに過ぎない。その考え方のベースがあるからこそ、上記シミュレーションによってあぶり出される、悲しいまでの現代人の酷さも、作品内での味付けとして楽しむ事が出来るのだ。

もう一つの味付けは環境問題。遠野の自然の中で生き生きと友情を深めて行く康一とクゥの姿と、都会の喧噪に疲れて自殺まで考えてしまうクゥ。その強烈なメッセージは最後の最後にクゥが発する一言に集約されていると言ってもいい。あの言葉の気持ちを人間たちが忘れずに持っていたら、環境問題も起こらなかっただろうに・・・・。

この作品、アニメーションとしては決して上質な作りではない。絵的にはルーティンのテレビアニメレベルだし、声優も子供たちが割と棒読みチックな子もいたりするので辛い部分もある。地味な作品でもあるし、低予算の部類になるのだろう。
しかし、そういったマイナス要因を差し引いても、なるべく多くの方に観て欲しい作品。観ればアナタの心に何らかの思いを喚起せずにはおかない作品である。


『すべてのシーンを原監督が徹底解説すると共に、作品に込めた思いを掘り下げる。本編からカットされたシーンの絵コンテも紹介。(角川サイトより)』だそうです。Wikiによると、当初は3時間に渡る作品だったらしいですから、カットされたシーン全部合わせて見てみたい!DVDが出る時には、出来ればそういう特典をお願いしますw
原恵一と「河童」の長い旅河童のクゥと夏休み公式ガイドブック

原恵一と「河童」の長い旅河童のクゥと夏休み公式ガイドブック

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本

サントラ。地味さがたたってグッズがほとんどないのが残念。
河童のクゥと夏休み オリジナル・サウンドトラック

河童のクゥと夏休み オリジナル・サウンドトラック

  • アーティスト: サントラ
  • 出版社/メーカー: Aniplex Inc.(SME)(M)
  • 発売日: 2007/08/01
  • メディア: CD

こちら主題歌。なかなか爽やかで見終わってからの気持ちも盛り上げてくれます。
夏のしずく

夏のしずく

  • アーティスト: 大山百合香
  • 出版社/メーカー: SMA(SME)(M)
  • 発売日: 2007/07/25
  • メディア: CD



※追記:DVD発売中です。

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