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鉄人28号 白昼の残月 [邦画レビュー]

「鉄人28号 白昼の残月」(監督:今川泰宏

未だ戦後復興の途上にある昭和30年代。今日も東京の地下からは巨大な不発弾が掘り出された。しかし、それを狙う謎のロボット3体。防ぐ為に正太郎操る鉄人28号が出動するが、3体が相手とあって苦戦する。ところがそこに謎の青年が登場し、正太郎から鉄人のリモコンを奪うと驚くような操縦技術を発揮!瞬く間に3対のロボットを粉砕する。驚く事はそれだけではなかった。彼は自らをショウタロウと名乗り、自分もまた金田博士の息子だと告げたのだ・・・・。

面白い。面白いんだけどね・・・・・何となく諸手を上げて褒められないんだよね。何でだろう。

上記の粗筋はなんと、オープニングから数分のナレーション&ダイジェスト映像のみで語られてしまう。「サンシャイン2057」もそうだったけど、前段の部分は手際良く説明してしまい、いきなり本題に入って面白いところをじっくり描くという姿勢はとてもいい。誰だって面白いところが見たいんだから。昭和30年代の描写も、作りかけの東京タワーはありがちだが、同潤会アパートを始めとした下町の猥雑感溢れる街並や、歌われる「お富さん」など、ディテールもしっかり作って雰囲気を盛り上げる。そして正太郎とショウタロウの兄弟の微妙な距離感が縮まって行くところや、村雨一家やアパートの管理人とのふれあいなど、人間ドラマもしっかり書き込まれていて、主な登場人物達がちゃんと「生きて」いるのもいい。

ただ、ドラマの比重が大きくなってしまった為に、鉄人の活躍が薄い。出て来る回数や時間は多いのだが、練習やら不発弾回収シーンなど、『燃える』活躍とは言い難い。ロボット好きとしては、やはり鉄人が活躍してこその「鉄人28号」なのだ。ラストの活劇も鉄人はどちらかと言えば蚊帳の外。ショウタロウと村雨兄の複葉機の方がカッチョイイ。その辺りがワタシ的には引っ掛かっていたのだ。

これは何故かと思ってつらつら考えていたのだが、根本的なストーリー構成上の問題と言えそうだ。今回のこの物語は、テレビシリーズの時以上に『戦後』という時代を意識している。不発弾や遺物と化した隠された兵器が、味付けではなくプロットの中心を成している。そして更に味付けに復員兵や傷痍軍人を登場させ、戦後復興によって変容して行く『日本国』の新しい姿に疑問すら投げかける。当然ドラマツルギーとして、戦中〜戦後を生き抜いて来た登場人物にかかる比重が大きくなるのだ。そしてその輪の中に入れない唯一の登場人物が、金田正太郎くんなのだ。

主要登場人物の中で、ただ、彼だけが戦後生まれ(?)であり、戦争に対して直接体験がない。テレビシリーズでは、逆にその戦後生まれの彼が戦中派の父や敷島博士、大塚署長を乗り越えて行くストーリーとして感情移入出来た訳だが、今回のこの劇場版では、どうやっても話の中心にはなり得なかったのだ。彼が傍観者的立ち位置になってしまったが故に、鉄人も活躍する余地がなくなってしまったのだ。

いきおい話の中心は義兄のショウタロウである。彼は今回、ドラマチックな要素のほとんどを背負っている。事件の発端にも絡み、登場人物の多くと個人的なつながりを持ち、「戦後の日本は嫌い」で戦争で守ろうとした結果がこれかと嘆き、そして最後はそんな日本をも守ろうとする。本当に主役級の活躍である。
ところが残念な事に、作品中の時間のほとんどで彼は余りにもミステリアスだ。数多くの謎を抱えている。見ている我々は、理解出来ない相手には感情移入出来ないものである。お陰でこの作品は、中心に一本通る『筋』をなくしてしまっているように思える。何もかもが不安定で不確定でありすぎる為、話がどこに向かって行くのかよく分からないままに進んでいってしまうのだ。

最初から群像劇として捉え、個々の織り成すドラマを重層的に楽しめば、また違った感想になったかもしれない。しかし所詮これは「鉄人28号」であり、期待して観に行く観客のほとんどは鉄人の活躍も期待しているはず。そういう意味では残念ながら大いなる失敗作と言ってもいいだろう。

うむー、残念。

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2004年の大傑作、今川カントクの鉄人が劇場版になって帰って来るよ!
 
 
劇場版サントラ。今回の音楽はなんと伊福部昭。生前の作品を、存命時に了解を得て流用したようですよ。時代設定にマッチしていい感じです。

劇場版「鉄人28号 白昼の残月」オリジナルサウンドトラック

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