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[完全版]下山事件 最後の証言 [小説レビュー]

033366.gif「[完全版]下山事件 最後の証言」(柴田哲孝) ※祥伝社文庫

戦後間もない昭和24年7月5日、一人の男が失踪した。男は日本橋三越に入るのを車の運転手に確認されて以降、半日以上行方不明となり翌未明に常磐線北千住〜綾瀬間の線路上で礫死体となって発見された。男の名は下山定則。国鉄初代総裁である。これが未曾有の騒動となった迷宮入り事件、いわゆる「下山事件」であった。

柴田哲孝の本は、まだレビューを書いていないが「TENGU」「KAPPA」を読んで面白かったので、珍しく畑違いの作品ながら、人気作家になるきっかけとなったこのノンフィクションを読んでみた。何せこの作品、2006年の日本推理作家協会賞と日本冒険小説協会大賞をダブル受賞するという華々しい作品。ノンフィクションとしてはもちろん、推理小説としても一級品、といった紹介もどこかでされていたので、これは良いかも、と思った次第。

「下山事件」に関しては、ワタシは全く知識がない。というかその存在自体知らなかった(爆)。これって常識の範囲?うーむ、歴史は(も)苦手だったからな・・・・。とは言えこの本、どういう事件だったかのあらましからちゃんと教えてくれるので、読むのには全く問題ない。柴田氏は、いまだ敬愛する自らの亡き祖父が、この「下山事件」に深く関わっていたのでは、という話を聞いたのを発端に、この事件に深く深く分け入っていく。
歴史は苦手、と言ったが、要は全く近代日本史も理解していないワタシ。つまり「下山事件」についてだけでなく、時代背景に関しても完全に無知。国鉄の成り立ちからマッカーサー率いるGHQについて、吉田内閣〜岸内閣〜佐藤内閣辺りの日本の政情についても分かっていなかったのだが、この本はその辺りも事件の理解に必要な情報は盛り込みながら話を進めていく。ワタシ同様の方も大丈夫ですw ただノンフィクションであり、謀略の極致な事件であるため、残念ながら(?)非常に登場人物が多い。事件に関わったとされる人物、証言者、記事・本を書いた記者や著者、事件発生から早60年を経て関係者はふくれあがる一方といった状態なので、頭の悪いワタシには最後、チンプンカンプンなところも(汗)。この辺りは近代日本史に造詣が深い方が理解し易いのは間違いないだろうね。

逆にワタシは、それだけ無知(歴史的にも政治的にも)だったので、どの話も新鮮で発見に満ちていた。国鉄初代総裁の殺人(と言い切ってもいいだろう)という事で、当時の政情が絡んでいる事ははなから織り込み済み。この本は、『下山事件』を扱う事で、結局戦前〜戦中〜戦後の日本の政治・経済、そしてそれに絡んで来る米国の思惑、その全ての暗部を浮き彫りにしていく。この辺り、決して表舞台では語られない、金や権力抗争が描かれており、改めて政治ってのは清廉潔白ではやっていけないものだと認識させられる。そこに登場する吉田茂(麻生太郎の祖父)、鳩山一郎(鳩山由紀夫・邦夫の祖父)などの総理大臣を始めとした政治経済の中心にいた人物たちの行動やバックボーンに触れるに付け、いかに表に出ていない暗部の闇が深いものかと痛感させてくれるのだ。今やテレビではヒーローのように扱われている白州次郎とて、その闇に埋もれる一人なのだ。いかに表に出て来る情報だけでは一面しか捉えられないか、という証左と言える。

まぁ、ノンフィクションとは言え、一個人の説明であるから全てを鵜呑みにしてはいけないし、逆に文中に表されていない部分もたくさんあろう。(主題ではないのだから尚更だ。)その辺りはわきまえる必要があるが。

最後、推理小説のように鮮やかに・・・という解決は当然待っていないのだが、それは大した問題ではないだろう。この、日本作家の筆による文庫本としてはかなり厚めな一冊は、現代の政治・経済が根底に抱える原理の一端に触れさせてくれる。読み易い文体や、推理・サスペンスを意識しているであろう文章の組み立てなど、扱っている題材の重さに比べて一般読者でも通読出来る作品に仕上がっている事も含め、大変貴重な一冊と言えそうだ。


この前に完全版でない単行本がありますが、かなり加筆されて別物になってるようなので、買う場合はぜひ文庫本を買いましょう。
下山事件最後の証言 完全版 (祥伝社文庫 し 8-3)

下山事件最後の証言 完全版 (祥伝社文庫 し 8-3)

  • 作者: 柴田 哲孝
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 文庫

最初に買った柴田哲孝氏の本。近々レビューしたいと思っています。
TENGU (祥伝社文庫 し 8-4)

TENGU (祥伝社文庫 し 8-4)

  • 作者: 柴田 哲孝
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2008/03/12
  • メディア: 文庫

タグ:柴田哲孝
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コメント 2

kkos

おっしゃる通り、その本の内容を鵜呑みにしてはいけません。
http://www.geocities.jp/kosako3/shimoyama/nagashima_nengajo.html
by kkos (2012-02-16 00:25) 

tomoart

>kkosさん
コメントありがとうございます。確かにこの本は想像の尾ひれを広げて行くような感覚を覚えましたね。もしかして、もしかして、、、と続くような。まぁワタシのようなライトな読者にとっては、歴史もフィクションも紙一重程度の話ではあるのですが・・・・。
by tomoart (2012-02-18 03:15) 

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