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おくりびと [邦画レビュー]

おくりびと「おくりびと」(監督:滝田洋二郎)

プロチェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属の楽団が解散した事をきっかけにチェロの道を諦め、妻の美香(広末涼子)と共に実家のある山形に帰って来た。職を探していた大悟は、求人の条件だけを見てNKエージェントという会社の面接に出掛けるが、そこは死体を清めて姿を整える事を生業とする『納棺師』の会社だった。大悟は、事務の女性(余貴美子)を除けばその会社の唯一の働き手である社長(山崎努)に押し切られるようにNKエージェントで働き始める。そして初めて死体に対する作業を手伝う事になるのだが、その死体は孤独死を迎えて2週間が経った老婦のものだった・・・・。

という事で、予告通りレビューします。まぁ、これだけ話題になって、日本アカデミー賞もとって、あまつさえ米のアカデミー賞最優秀外国語映画賞までとり、未だにロングラン続いているだけあって、ワタシが何も言わずとて当然ながら、とても良い映画でした。

“納棺師”という非常にニッチな職業をモチーフにしているにもかかわらず、これだけのヒット作となったのは、やはり普遍的なテーマである『生と死』『親と子』が表現されているからだろう。そしてそれを飄々とした軽妙と言っていいようなタッチで描いた滝田洋二郎監督がまた素晴らしい。

『生と死』はもちろん納棺師の話だから死が出て来るのは当然だし、中盤老若男女の死体を相手に次々と仕事をこなしていく大悟を描き、それがイコール、誰でも最後は死んでいく、という事を意識させる。終盤描かれる二つの死は、その事の集大成的な意味合いが強い。そしてこの作品は、多くの普通の『死』を描く事で、逆に『生』を意識させる。生と死が不可分なものではなく、表裏一体のものだと言う事が教訓めく訳でなく、じんわりと沁みて来る。
もう一つの『親と子』は、人生と人生は交わって意味を持っていくのだと言う事の象徴だ。大悟の心に起こる二つの変化(ネタバレになるので詳しく書けないが、『父』という言葉に集約される出来事)、それこそがこの作品の根幹なのだ。そしてそれを補完するように様々な葬儀の挿話のほとんどで親子関係が描かれていく。
つまり『死』という人生の終わりを描く事で、その人がこの世に残していった『絆』という痕跡があぶり出される訳だ。死んでしまえば全て終わり、などという人生はない。そう、この作品は人生讃歌そのものでもある。

主演の本木雅弘は相変わらずうまい。田舎のあんちゃんにしてはカッコ良過ぎるがw作中で何度も見せる、困った顔が真面目顔なのに何ともユーモラスで、死を描いている作品としての品を保ちながらも軽妙な雰囲気を失わない、絶妙なバランス感。そしてこの物語はとにかく大悟の物語である。大悟の変容、成長、寛容へと至る物語なのだ。モッくんは今作の企画の立ち上げも行っているし、さすがに作品世界を充分理解していることもあるだろう。見事な表現力でした。

脇役の山崎努や余貴美子、吉行和子など、芸達者揃いなのでこの辺りは改めて言う言葉も既にないが、日本アカデミー賞の主要部門で唯一賞を逃した広末涼子について一言。
今回の彼女は全く悪くないのだが、作中では主人公の妻役ではありながら、ほとんどスポットライトが当たらない役で、これでは賞をとるのはさすがに無理だろうという扱い。いや、大悟に大きな影響を与える重要な役なのだが、それは幾分記号的な意味合いが強いのだ。役者としてのアピールポイントはほとんどないと言って良いのではないか。後半見せる愁いを帯びた顔、潤んだ目が印象に残るが、それだけで賞が取れるものでもない。そういう意味では役者としてはちょっとかわいそうではありました。

見え見えの予定調和な展開や、使い切れていない設定(美香がウェブデザイナー)など、気にならないではないが、抑えた演出ながら泣きのポイントはいくつもあり、気持ち良く泣けて最後は清々しく見終われる。誰にでもお薦め出来る作品です。ロングラン中ですから、DVDなどと言わずに是非劇場で。


3月18日DVD発売。でもBlu-rayはまだ予定にないみたい。山形の自然が美しく切り取られていて、その辺りも見どころなので、どうせならBlu-rayも早めに出て欲しいです。
おくりびと [DVD]

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  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD

ノベライズですね。
おくりびと (小学館文庫)

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  • 出版社/メーカー: 小学館
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サントラ。久石譲の音楽も雰囲気作りに一役買っています。
「おくりびと」オリジナルサウンドトラック

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  • メディア: CD

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コメント 3

turbo

どもです。
オスカーGETしちゃいましたね。
>DVDなどと言わずに是非劇場で。
了解です(^_^)>
by turbo (2009-02-24 07:27) 

tomoart

>turboさん
ども。ホントに観に行ってる途中でオスカー受賞の報を見てビックリしちゃいましたw ワタシの行った、海老名のワーナーでは、さすがにその情報は貼り出されていませんでした(爆)。
by tomoart (2009-02-25 02:41) 

tomoart

>Cさん
nice!ありがとうございます。
「おくりびと」見られたんですか?なかなかユーモア&ペーソスがあっていいですよね。
by tomoart (2010-01-22 02:24) 

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