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パンズ・ラビリンス [洋画レビュー]

Pan's_Labyrinth_poster.jpg「パンズ・ラビリンス」(監督:ギレルモ・デル・トロ)

1944年スペイン。内戦の残り火が燻る山麓に、ビダル大尉率いるレジスタンス掃討隊の駐留地があった。そのビダル大尉と再婚した母親と共に、駐留地にやって来たオフェリアは、童話の本が大好きな少女。母親に童話を卒業すべき歳だと注意されても手放す事は出来なかった。そんなオフェリアは新しい父親が出来ても亡くなった実父を忘れられず、自分の息子が欲しいだけのビダル大尉とは当然うまく行かない。
そんなある夜、妖精が現れ、オフェリアを駐留地の外れにある迷宮へと誘う。そこには迷宮の番人である牧神パンが待っており、オフェリアが昔地上に出て来て帰らぬまま亡くなった、地中の王国の王女の生まれ変わりであると告げる。王様はオフェリアの事を待っているが、オフェリアが王国に帰る為には、三つの試練を乗り越え、自分が王女であると証明しなければならない。オフェリアは試練を乗り越え、辛い現実から王国へ帰還する事が出来るだろうか・・・・。

恥晒しではありますが告白しますと、この映画のタイトルを「バンズ・ラビリンス」だとずーっと勘違いしてました(汗)。オープニング前に日本語でタイトルがスクリーンに映された時には、結構な衝撃でしたね(爆)。まさか“牧神・パンの迷宮”という意味だとはねぇ。いや、作品内でパンが自己紹介した時には膝を叩きそうになった(笑)。
また観た劇場は厚木テアトルシネパーク。2月24日に厚木パルコ閉館と共に13年の幕を閉じる厚木最後の映画館。その特別上映を観た。

で作品であるが・・・。
ダークで現実が主な舞台という認識で望んだ今作。もしかしたら大ハズレするかもと思って観たが、さにあらず、とても悲しくて美しい作品だった。

まず舞台を山麓の駐屯地近辺に限定したところが良かった。スペインの歴史を知らなくても、その土地の中で話が完結するので分かりやすいし、それによって登場人物も整理されて人間関係も把握しやすい。そして上映時間も絶妙な長さ。前述の舞台や人物を限定した必然とも言えようが、2時間を切る上映時間中にテンポよく物語が進んで間延びする事がない。この手の歴史ファンタジーの小品は、監督の思い入れが強くなりがちな事もあり、得てして冗長だったりするが、この作品は風呂敷を広げる事なく巧くコントロールされている印象だ。
また軍事政権の恐怖を伝える為の残虐描写が随所に出て来るが、ワタシ的にはやり過ぎのギリギリ手前で済ませている印象でここも巧い。この描写でPG-12となってしまったと思うが、これ以上描写を削ると圧政の狂気が伝わらないと思うので、そこは譲れないところだっただろう。ワタシはそれより異常に生々しかった昆虫描写がゾワゾワした。前半第1の試練の辺りまでの虫の描写が最後まで続いたら、そちらの方でワタシはやられちゃったかも(汗)。
クリーチャーのデザインは独特で、恐ろしく気持ち悪いが、どこか美しい。CGも使っているらしいが、存在感・オリジナリティがあり、ギレルモ・デル・トロ監督の美的センスが端的に現れていて良い。

ストーリーは、オフェリアが最初の方では我がまま勝手なウザキャラとして出て来るが、中盤〜終盤に向け、成長してしっかりして行く。パンフレットなど読むと、宮崎駿の「千と千尋の神隠し」と対比させるなどした記述もあったが、「千と千尋の神隠し」では千尋の成長が全く感じられず、そこがワタシ的には許せなかった。今作は逆にその辺りの描写が丁寧になされており素晴らしい。

そして、今作は“敵”が魅力的だ。ビダル大尉である。この作品内でのフランコ政権の象徴として君臨する残虐な性向を持ったこの軍人は、潔癖性で凝り性で、尚かつ最前線でレジスタンスを相手に銃撃戦を行う事を厭わぬばかりかその最中に副官相手に『軍人冥利に尽きる』とまで言い切る。端から見れば独善的で利己的な行動も、本人の中ではあくまで美学に裏打ちされている、という描写が、非道な行動によって憎むべき敵と言うポジションながら何故か憎み切れない魅力を付与している。このビダル大尉の存在があってこそ、オフェリアやメルセデスが浮き出て来るのだと思う。

スペイン内戦に対して興味が出て来たら、Wikiなどでちょっと調べると良いですね。ワタシも茫洋としてほとんど記憶がなかったので、今回色々読んで記憶を新たにしました。そして史実と今作のラストの余韻を併せて考えた時に、更に一段深い感慨を感じました。


先日も紹介したDVDの、こちらは豪華版。のめり込んだ方の為に。
パンズ・ラビリンス DVD-BOX

パンズ・ラビリンス DVD-BOX

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • 発売日: 2008/03/26
  • メディア: DVD

パンズ・ラビリンス 通常版

こちらはノベライズ。追体験用に。
パンズ・ラビリンス

パンズ・ラビリンス

  • 作者: 黒坂みひろ, ギレルモ・デル・トロ
  • 出版社/メーカー: ゴマブックス
  • 発売日: 2007/10/17
  • メディア: 文庫

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コメント 8

kovac

本の表紙とは印象が違う作品のようですね
大人向けのファンタジーでしょうか?
見てみたいです。
ナイト・ウォッチといい、ファンタジーにも色々あるんだなって
勉強になりました。
by kovac (2008-01-28 18:32) 

tomoart

>bono3さん
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます。
「パンズ・ラビリンス」は完全に大人向けのファンタジーですね。大尉が村民を射殺するシーンとかも直接的に描かれていますので、子供には見せられないでしょう・・・・一応引き絵になっているので、生々しさは若干抑えられていますが。
「ナイト・ウォッチ」もストーリーが子供には理解出来ない(大人も理解し辛いw)し、映像的にも美しさというより、汚さを昇華して個性とするような作りですから、余り子供に見せたい感じではなかったですね。

ワタシもファンタジー(FT)よりSF指向だったので、FTの小説系とかが弱くて恐縮なのですが、FT大好きなアメリカ人がどんどん作品を輩出して来たお陰で、FTも大人のもの、という認識が広まって来てますね。
by tomoart (2008-01-29 01:52) 

こんにちは。
私も昆虫が弱いので、残酷描写よりそっちでのけぞりました(笑)。
ビダル大尉もキャラが立ってて、強烈でしたねぇ。
昔FTやSFが大好きだった少年少女が、今こういう映画を作る歳に
なってるんでしょうね。映像技術の進歩もあるし、どんどん大人の
FT映画が生まれそうで楽しみですよね!
by (2008-02-03 09:30) 

tomoart

>ERUNさん
こんにちは。コメント返し、恐れ入りますm(_ _)m。
SF映画の世界で、「スター・ウォーズ」公開から類型的なフォロワーの後、どんどん多様化の波が押し寄せたのと同じ事が、30年の時を過ぎて「ハリー・ポッター」以降、ファンタジー映画でも起こっているような気がします。また、大人向けの絵本の流行なんかも、同じ傾向の話かもしれないですね。これからますます色々なFT作品が楽しめるのは間違いなさそうですw
by tomoart (2008-02-03 17:41) 

こんばんは~
ビダル大尉はただの「悪役」で割り切れないところが良かったです。
クリーチャーのデザインも独創的で、他のファンタジーとは一線二線も画してますね。
あの手の平に目ん玉のある化け物…思い出したら鳥肌が(笑)
by (2008-02-04 21:44) 

tomoart

>merciさん
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます。
ビダル大尉、本当にいたら憎くてしょうがないような人なのに、映画の登場人物としてみると思った以上に魅力的でした。今作の中で、一番複雑な精神構造の持ち主でしたからね。多分、スペイン内戦時の軍人と言うのは、ああいう精神でないと生きて行けなかったんでしょうね。そういう意味ではビダル大尉も内戦の被害者と言えるかもしれませんね。
クリーチャーたちは独特の美しさを持っていて、ハリウッド的な画一さを脱した作家性を感じさせて良かったですね。

そう言えば、merciさんのブログへの書き込みで、口を縫うのを『自分でやってるから』あんまり痛みを感じなかったと書き込みましたが、自分って当然ビダル大尉の事ですよ?ワタシは口縫ってませんからね・・・ってそんな事わかりますよね(爆)。自分で読み返してみたら、ワタシが縫った事あるから気持ち悪くないっていう意味にも読めるな、と思って誤解されてるかも!って気になってしまったので(汗)。
長々言い訳ですいませんm(_ _)m。
by tomoart (2008-02-04 23:01) 

coco030705

こんにちは。
いやいやほんとに昆虫は気持悪かったですね。(^^)
このオフェリア役のイナバちゃんは、日本アニメ大好きなんだそうで、
「火蛍の墓」が一番すきとか。その他、「風の谷のナウシカ」も好きなんだそうですよ。かわいかったですよね。
by coco030705 (2008-02-05 11:08) 

tomoart

>coco030705さん
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます。
「火垂るの墓」が一番好きとは、空恐ろしいですね、イヴァナ・バケロ。ちゃんと理解してるのかが心配になってしまいますが(爆)。

虫は、最初の石像から出て来た時もうげっ!と思い、大ガエル退治の洞窟で三葉虫(ダンゴムシ?)みたいなヤツがオフェリアの腕から顔をウロウロしてるのを観てたら、目をそらしそうになりました(木亥火暴)。子供の頃はあんなに虫で遊んでたのになぁ・・・・。
by tomoart (2008-02-06 03:24) 

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