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殺人鬼 [小説レビュー]

「殺人鬼」(横溝正史)※角川文庫版

「悪魔の降誕祭」に続く、金田一モノの中編集。

殺人鬼
私はある日の帰り道、近所に住む賀川加奈子という美しい人妻と知り合いになる。その加奈子は前夫である亀井淳吉に付け回される毎日を送っていた。ある日、賀川家で殺人事件が発生。加奈子の夫が頭を割られて死んでいた。犯人は逃げ出した所を見られている亀井淳吉だと思われたのだが・・・・。
久しぶりに第三者の視点から描かれた金田一モノ。この“私”がなかなかに俗物なのが、この作品に面白い効果を付け加えているように思う。解決編の切れ味も微妙なのだが、この作品自体が“クライムノベル”的体裁となっており、金田一耕助の存在も味付け程度になっている。

黒蘭姫
銀座エビス屋百貨店で万引きが発生。取り押さえようとした新任のフロア主任がナイフに差されて絶命した。ところが万引き犯は黒い外套に厚いヴェールを被った“黒蘭姫”と呼ばれている万引き常習犯で、しかも彼女の万引きは支配人公認で後々処理されていたのであった。支配人が全てを知っているらしい事から、簡単な事件と思われたのだが・・・・。
金田一耕助が銀座に事務所を開いていた時期(なんと三カ月しか開いていなかったのだ)の貴重な作品だが、内容自体は今イチ面白みに欠ける。犯人候補が少なく、しかも“黒蘭姫”の本人像がいつ迄経ってもぼやけているため、謎解きの面白さも魅力的な登場人物も存在しない作品となってしまったからだ。

香水心中
金田一耕助は化粧品会社社長・常磐松代に請われ、軽井沢へと向かった。しかし、到着してみれば『問題はなくなった』として解雇。憤慨する金田一だったが、その日の夕方、松代の三人の孫のうち、年長の松樹が人妻と心中してなくなったのだ。バラの香りの香水に包まれて・・・・。
中編にしては登場人物が多く、人間関係も複雑。お陰でそれぞれのキャラクターが掘り下げられておらず、割と淡々とした印象を受けてしまう。最後の解決編も横溝作品によくある犯人の告解形式で、淡々とした印象を更に強める結果になってしまった。

百日紅の下にて
終戦の一年後、市ヶ谷八幡の坂を汗だくになりながら登って来る義足の男が一人。一面焼け野原の中、百日紅(さるすべり)の花咲く一角に佇み涙を流した。そこに追いかけるようにやって来た復員者ふうの男が声をかけ、『あなたの知人から頼まれ、戦中の事件の謎解きをしに来た』と語った・・・・。
金田一耕助、戦後最初の事件。・・・というか解決だけだけど。安楽椅子探偵的に、戦死した知人の話から過去の事件の真相を暴いてみせる。まぁ、テーブルマジックの種明かしみたいなものでw謎解き自体に膝を打つような魅力がある訳ではない。この作品の一番の魅力は、義足の男・佐伯一郎の語る、彼と戦中に死んでしまった由美という女性の異常な人物形成にあると言って良いだろう。女性恐怖症の男と“昼は淑女 夜は獣”という男の欲望を具現化したような女、二人のたどる何とも哀れな人生がなかなかに興味をそそる。

金田一モノのファンにとっては戦後最初の事件や事務所時代の作品と興味をひかれる内容が入っていてそれなりに楽しめるが、純粋に探偵小説として楽しめるかと言えば微妙な気がする。
どちらかと言えば「悪魔の降誕祭」の方が面白かったように思う。



殺人鬼 (角川文庫)

殺人鬼 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 文庫


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