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病院坂の首縊りの家 [小説レビュー]

「病院坂の首縊りの家」上下巻(横溝正史) ※角川文庫

昭和28年、写真館の息子・本條直吉は、近所の病院坂にある空き家にて結婚写真を撮りたいという依頼を訪ねて来た女性から受けた。周囲の状況が不審だったこともあり、直吉は金田一耕助に状況の確認を依頼する。しかしその数日後、またも同人と思われる依頼者から同所にて”風鈴”を撮影して欲しいという依頼が舞い込み、訪ねて行くと、その”風鈴”というのは人の生首を風鈴に模して吊ったものであった。ここに端を発した『病院坂の首縊りの家の事件』は、その後解決まで約20年を要するのであった・・・・。

いやー、「悪霊島」でも言ったけど、こちらもだいぶ頑張った感がある。文庫本で前後編、「悪霊島」よりも厚みがある。
でも、「悪霊島」よりもずいぶんと読ませてくれた。この最後期の作風は、もしかしたら都会が舞台の作品に合っていたのかもしれない。登場人物も事件も盛りだくさんのこの作品では、過多な細部描写も結構生きている。
前半の法眼家の家系図描写はちとキツかったが、まあまあ短めに終わらせて事件へと向かって行ってくれる。そして前半だけで「由香利誘拐事件」「結婚写真事件」「冬首縊り」「生首風鈴事件」「小雪失踪事件」と意外な程に事件が起きる。事件の本数としては後半よりよほど多いのだ。それによって飽きさせないしかけになっている。
後半は出だしこそモタつくが、解決編に向けた大きなうねりと、新たに物語に参加する若いカップルによって中盤以降はグイグイと話を進めてくれる。解決編については「悪霊島」同様、広げすぎた風呂敷ゆえ、スパッと気持ちよく一刀両断というわけには行っていないのだが、全体的な話の興味で持って行ってくれるので減点は少なめ。

そして、よく知られている通り、この作品で金田一耕助はフラリといなくなってしまう。その終わりの余韻がまた、満足感に繋がっている。シリーズ全体を俯瞰した時の大団円を読んでいる、という実感が、この作品に更にプラスに働いているわけだ。
その為にこの「病院坂の首縊りの家」では、久しぶりに横溝正史本人が何度か登場する。ワタシは忘れっぽいので途中の巻でも登場してたかもしれないが、印象として強いのはやはり「本陣殺人事件」辺りで描写された、横溝と耕助の出会いだ。それから延々と読んできて、ここでついに二人は別れの時を迎える。万感胸に迫る、と言えばちと大袈裟だが、なんとなく感傷的にならざるを得ない気分だ。

角川文庫の金田一耕助シリーズはまだ最近発刊された短編集などが若干残っているが、基本的なものはこれで読み終わった。締めて22冊。そのほとんどを今年に入ってから読破して来たが、お陰で今年前半はずいぶんと楽しませてもらいました。ハズレ作品もあったけど、やはり高名な作品はとても面白かったし、知らない名前の作品の中でも意外な程面白い作品があったので、通して読んでみて良かったなぁ、と思っています。そういう意味では契機となった市川崑のセルフリメイク版「犬神家の一族」にありがとうという感じですねw



上下巻で昭和28年と昭和48年が分かれています。時代の書き分けはあんまり上手く行ってない気がしますw

病院坂の首縊りの家 (上)

病院坂の首縊りの家 (上)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1996/01
  • メディア: 文庫


病院坂の首縊りの家 (下) (角川文庫―金田一耕助ファイル)

病院坂の首縊りの家 (下) (角川文庫―金田一耕助ファイル)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1996/01
  • メディア: 文庫



石坂金田一の最終作(覗く06版犬神家)。まだ見てないんですが、先日NHK-BSで放送してたのを録画したので、そのうち見たいと思いますw

病院坂の首縊りの家

病院坂の首縊りの家

  • 出版社/メーカー: 東宝ビデオ
  • 発売日: 2004/05/28
  • メディア: DVD


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