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最期の声 [小説レビュー]

「最期の声」(ピーター・ラヴゼイ) ※ハヤカワ文庫

ピーター・ダイヤモンド警視シリーズ第7作。ラヴゼイは過去に歴史物の推理小説を数多く執筆していたが、好みとしては現代を舞台にしたこのシリーズの方が好きだ。

ピーターは今日も犯罪者を有罪に追い込んだ。裁判の判決を傍聴席で確認したあと、同僚達と祝杯を上げようと、意気揚々と外へ出たが、そこで犯罪者の”女”に襲撃を受け、傷を負ってしまう。すっかり意気消沈した彼はそのまま家に帰り、愛妻ステフに傷の手当と慰めを受け、やっと落ち着くのだった。
翌日、またもや殺人の被害者が発見され、ピーターが現場に赴くと、待っていたのは他ならぬ愛妻ステフの銃殺された姿だった。愕然とする彼に追い打ちをかけるように、警察の内規により事件から外れるよう要請されてしまう。しかし、彼は自分の手で犯人を検挙する事をステフに誓うのだった・・・・。

その衝撃的な内容ゆえ、どうしても読む前から漏れ伝わって来ていた『ステフの死』という事実を、ワタシもついに読む事になった。ステフはシリーズ第1作から登場している、ピーターの精神安定剤とも言うべきキャラクターで、「シリーズの転換点」という、裏表紙の粗筋に書かれている言葉も素直に納得出来る事件。これでピーター・ダイヤモンド警視も、コリン・デクスターのモース主任警部やR・D・ウィングフィールドのジャック・フロスト警部と同じように男やもめになってしまったか。

このブログを書くようになって、作品(映画でも本でも)を鑑賞している時に、以前より客観的な目で見るようになった気がするのだが、そういう目で読んでいて気付いたのが、作品鑑賞とストレスとの関係だ。といっても以前『模倣犯(二)(三)』の記事で、サッカーにかこつけて大まかには書いた事なんだけど。

推理小説と言うのは乱暴に言うと、冒頭に謎が提示され、謎解きの過程が描かれ、最後に謎を解明する物語だ。
読者は謎の提示を受けて(もしくは本の読み始めから)ストレスを徐々に溜め始め、謎解きが進まないとどんどんストレスは大きくなる。途中『衝撃的な』新事実が発覚したりして、ストレスの一部は発散されるのだが、解決するまで本当のストレスの解放はない。推理小説では基本的に解決されない作品はない(例外はあると思うが)ので、読者は最後の解決=解放を夢みてどんどん読み進めて行く。
溜め込むストレスが大きければ大きい程、そして解決が鮮やかであればある程、読者のストレスの解放される快感指数は大きくなり、読後の『面白かった』という感想は強くなるのだ。
とはいえ長くてストレスが溜まればイコール面白いわけではない。ストレスと言う負荷が掛かった状態で読者を前に前に読み進めさせなければならない訳で、ちょっとでも計算が狂ってつまずけば、こちらは読書半ばで放り出したくなるような状態になりがちだ。合間合間にちょっとずつ餌を蒔き、読者を迷路の中であっちこっちへ引きずり回せて初めて本当に『面白い!』という感想にたどり着けるのだから。

その点、やっぱりラヴゼイは達者だ。飽きる事なくどんどん読み薦めたくなる。今回の作品も、途中、犯人候補がいっぱい出て来る。それも同傾向の人物ではなく、マフィアのボスやら出所したての犯罪者、ステフの元夫など様々。その色々な人物達を追いかけて行く度に捜査のシチュエーションも大きく変わり、新しい側面が出て来る。
そして途中から突然、合間合間に挟まって出て来る、一見本筋と関係ないような物語。それも何となくではなく、全く繋がらなさそうな話が、本当の最後の最後にピタッと繋がって来る、この妙味。唸ってしまいますよw こちらも気にして、どこで繋がって行くのかなぁ、と思って読んでいるのに分かりませんでした〜。

モース主任警部は亡くなってしまったし、フロスト警部はウィングフィールドが寡作で次がいつ出るか分からないから、このダイヤモンド警視シリーズはコンスタントに出て来る作品としてとても貴重。既にハードカバーは次作が刊行されているが、これからもまだまだ末永く続いてくれる事を願っています。 
 
 

最期の声

最期の声

  • 作者: ピーター・ラヴゼイ, 山本 やよい
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 文庫


 
 

上に書いた通り、本気の推理小説は長編が面白い。ワタシも最近は長編ばかりです。短編ではストレスを意識する事なくトントン拍子で話が進んでしまい、残るは解決編の切れ味だけで勝負という事になってしまう。そして、切れ味だけで言えば、未だに「シャーロック・ホームズ」に勝る短編をワタシは知らない。読者に対してフェアでなければ後ろ指さされてしまう現代では、もうこれ以上の短編は出てこないでしょうね。「〜冒険」は前に紹介したのでこちらを。良作は確かに前半の巻に多いのだが、こちらの「ブルース・パーティントン設計書」もワタシは結構好きなんです。

シャーロック・ホームズ最後の挨拶  新訳シャーロック・ホームズ全集

シャーロック・ホームズ最後の挨拶 新訳シャーロック・ホームズ全集

  • 作者: アーサー・コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/04/12
  • メディア: 文庫


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