首 [小説レビュー]
首(横溝正史) 角川文庫版
金田一耕助シリーズ10冊目。短編〜中編4編を収録。
生ける死仮面
売れない素人芸術家が男色の末に起こした不祥事と見えた事件が実は・・・。
ドンデンのドンデンがあり、推理物としてはそれなりにイケてる。ただ、やっぱり短編は華やかさがないなぁ。どうも論理をこねくり回した末にやって来る結論が、鮮やかに決まらない。
花園の悪魔
花壇に倒れていたヌードモデルの全裸死体。単純な痴情のもつれと思われたが逃走した犯人の行方が全く見つからず・・・。
こちらもハッとするドンデンがあり、「生ける死仮面」よりスキッと結論が落ちて来るのだが、決まった!と思った最後に蛇足が。最後の場面は不要だと思うけど。それによって後味が更に悪くなった。
鑞美人
白骨から生前の姿を復元する研究を実地に試したところ、自殺と思われた遺体は数ヶ月前に殺人現場から逃走して行方知れずになっていた元・女優の姿に復元された。女優は殺されたのか、本当に自殺なのか・・・。
この本の中では一番長い中編だが、その割には登場人物が多めで若干未消化な感じ。トリックなどは悪くないと思うのだが、状況説明が中途半端でなんだか解決後のスッキリ感が薄いのだ。最後の大ドンデンも、なんだか取って付けた感じの場面描写で、もう少しこなれていればなぁ、と思わせる。
首
古い言い伝えのある「獄門岩」と「首なしの淵」。そこに言い伝え通り首と胴体が別々になった死体が発見されたのはちょうど去年の事だった。ところが今回、またしても同じように死体が発見された。しかし、二つの事件に関連性は全く見当たらない。今回の被害者はたまたまこの地にロケに来ていた映画監督で、地元に繋がりは見いだせなかったからだ・・・・。
この本のタイトルロールであるが、なんだか長編のシノプシス的な感がある。この本全体に言えるが、どうも横溝正史は長編の方があっているのではないか。短編は話を簡潔にしてキレで勝負した方が面白いのだが、彼の作風は雰囲気重視で枚数を費やして説明がしっかりされているところの方が面白いと思う。短編を書くとどうしても説明が単調になり、肝心の雰囲気が書き切れていないように思うのだ。
まぁ、今の時代に読んでいるから見方がシビアになりがちだとも言えるのだけど。
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