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海辺のカフカ [小説レビュー]

51XS036DBPL._SS500_.jpg「海辺のカフカ(上・下)」(村上春樹)新潮文庫

15歳の僕、田村カフカは東京中野の家を出た。当てもなく流れ流れて高松で不思議な私設図書館に迎え入れられ、一時腰を落ち着ける事になる。そこで出会った大島さん、そして佐伯さんとの触れ合いの中で、今まで感じた事のない感情が芽生えていく。
一方、都からの補助を受けて中野で暮らしている初老のナカタさんは、猫と話せる特殊な能力を使って迷子の飼い猫を探す仕事をしていた。そしてある猫を探しているうちに“ジョニー・ウォーカー”と名乗る怪しい人物と出会う。
二人の旅路は、“入り口の石”によって、知らぬ間にクロスオーバーしてゆく・・・・。

昨年末、高校同級生数人で忘年会をやった時に、ワタシが「ノルウェイの森」チェーンリーディングしているのを知っていたある友人から『「ノルウェイの森」より「海辺のカフカ」の方がすんなり読めた』と言われ、一読していたもののほとんど記憶になかった今作が気になり出して再読する気になったw

お陰で「ノルウェイの森」スパイラルからやっと抜け出す事が出来た。ありがとうマリさん(笑)。

で今作の話だが・・・・どうしてもこれまたネタバレレビューとなってしまうと思うので、これから読もうかと思っている方は読後に来て下さい(笑)。

「ノルウェイの森」は自分が年齢を重ねて物語に対するイメージが変わって来た部分が大きかった。同じような理由なのか、それとも単に初読の時の読みが浅かったのかは分からないが、今作も初読時の記憶よりずいぶん面白かったように思う。とは言えbetterレベルだったが・・・・。

ワタシは(何度も書いて恐縮だが)登場人物に感情移入して読むたちな訳で、じゃあ今作でカフカくんに感情移入出来たか、と言うと残念ながら出来なかった。多分そこが「ノルウェイの森」と比較してしまうと今作で“最も乗れない”要因だと思う。だからワタシみたいなたちじゃなければ、また全然違う感想を持つだろう。

カフカくんに感情移入出来なかった要因は、簡単に言っちゃうとワタシ自身と全然違うから、という事になってしまう。人間やっぱり自分に近いキャラクターの方が共感しやすい。(だから子供番組に子供の登場人物が必要だと思われてる訳だがw)

カフカくんは基本的に“普通の人”ではない。第2の人格のカラスくんが自分の心の内にいるし、オイディプス的呪いに苛まれる。そして「世界で一番タフな15歳」になろうとする。普通、人が家出をする場合「タフであらねば」と思って家出をする人はいない。逆にその場に踏み留まるために思う事だ。何故なら家出とは“何かから逃げる”行為であるからだ。

ただ、そう言った特殊な性格付けだけで読み手(ワタシ)が感情移入出来なくなる訳ではない。魔法使いにだって怪物にだって動物にだって感情移入は出来るのだから。

それなのになぜカフカくんに感情移入出来ないのか、と言うと、彼の特殊さの理由付けが曖昧だからだ。人は理解出来ない相手に共感する事は出来ないのだ。もちろん父親との関係性の中でそう言った特殊性が産まれたのだろうとは想像するが、曖昧模糊とし過ぎていて理解出来ない状況を改善出来ていない。

そしてカフカくんの章は一人称で語られるにもかかわらず、感情表現が非常に薄い。それはカフカくんがタフであろうとして感情に流されないようにしているから当然と言えば当然なのだが、お陰で読者はカフカくんとの距離感を詰める(親近感を感じる)事が出来ないのだ。特殊な文体(短いセンテンスの重なりで語られる)がそれを更に補完している。

後半に入って佐伯さんに対する思慕の情が描かれるに及んでやっとカフカくんへの好意のとっかかりを得るのだが、残念ながら時すでに遅し、である。

対してナカタさんの章。こちらのナカタさんもカフカくんに負けず劣らず特殊なキャラだ。しかしある程度のバックボーンを説明してくれているから、まだ感情移入出来る。ただこちらは逆に後半になると不思議キャラ化してしまって、人物というより星野くんの動機というだけの役割になって感情移入を拒否してしまう。

お陰で作中で一番一般人の星野くんが最も感情移入の受け皿として最適なキャラクターとなってしまう訳だ(笑)。彼は彼自身の半生もナカタさん相手にぺらぺら喋るし、物語の中で成長するし、クライマックスでは大活躍する。まことに感情移入先として正しいキャラという事になる(笑)。だから前半早めに星野くんが物語に絡んで来ていたら、この作品はもっと普通に楽しめただろうと思うんだけどね。

もう一つ、猫好きとしては正視に耐えないジョニー・ウォーカーの所行の生々しい描写も、この作品を好きになれない理由の一つかなぁ。しかも物語のターニングポイントと絡んでいるので、読まずには進めないと来ている。

今作で一般的に話題になっているのは、物語の読み解き自在な事かと思うが、ワタシはあんまり気にならなかった。こんなに入り組んだ作品で、解明されない謎も多いから、全体に読後感としてモヤモヤするけどw作品にのめり込めてないからディテールを楽しみたいとまで思わないんだよな(爆)。

ワタシとしては、村上春樹作品となるとどうしても「ノルウェイの森」と比較してどうか、という視点になってしまって可哀想ではあるが、感情移入しまくれるwかの作品に比較して、余りにもそれのない今作には辛い点数しか上げられない。単独で見れば充分面白いところのある作品とも言えるのだが・・・・。



海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/02/28
  • メディア: 文庫
海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/02/28
  • メディア: 文庫

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tomoart

>xml_xslさん
nice!ありがとうございます。久々の書評でした・・・・。
by tomoart (2012-01-28 15:49) 

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