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風の歌を聴け [小説レビュー]

風の歌を聴け_指1.jpg「風の歌を聴け」(村上春樹)※講談社文庫

大学生の僕は夏休みに地元の街へ帰省していた。友人の鼠とジェイズバーでビールを飲み、レコード店の店員の女の子と付き合い、そうして1970年の日々が過ぎていく。

「ノルウェイの森」を読んで、ついつい村上春樹の他の本も読んでみたくなるってのは当たり前の話だが、その行動は20年前の「ノルウェイの森」初読の時と同じ行動だぞ(笑)。でも止められないワタシだった。

話は大きく脱線するがw(今作のレビューだけ読みたい方は下半分だけお読みください笑)ワタシ自身の読書の傾向は海外推理小説または海外SF小説がほとんど。日本の出版傾向の中でもかなりニッチな部類に入るジャンルを好んで読んでいるのは、これは映画の好みにも言えるかもしれないが、ワタシが物語のクライマックスに衝撃を求めているからかもしれない。簡単に説明すれば本格推理小説で『えぇ!そいつが犯人だったのか!』っていうヤツである(笑)。SF小説にしてもセンス・オブ・ワンダー溢れる作品は、必ず最後にゾクゾクさせてくれるものだ。

日本人作家の作品はどうしても感性が自分と近い分、何となく先が読めて来てイカン(笑)。最後にガツンと来る事が少ない。その中では横溝正史のイイ作品はガツンと来て良かったけど。という事であまり日本人作家の本は読んでいなかった・・・という説明だった(笑)。

もちろん物語が面白ければ上記の範疇に入らない本だって喜んで読むのだが、基本的に投資のつもりで新本を買って読む事にしているワタシとしては『海外本格推理小説』であれば、かなりの確率で満足出来る、という気持ちがあるので、なかなか他の本に手が出なかったわけだ。

で「ノルウェイの森」は、当然だが全然上記に当てはまらない。ただ当時でもかなりの話題だったので、ハードカバーはスルーしたものの、文庫本になった時に買ってみた次第。でまぁ、ハマってしまったのはレビューに散々書いた。

遠〜くに行ってしまったがwそしてこの「風の歌を聴け」である。この作品にまずワタシは何を求めていたのか。上記のような“ラストの衝撃”ではもちろんない。どちらかと言えば当然「ノルウェイの森」チックな“切なさ”を伴った物語の面白さを求めていたのだと思う。

しかし、残念ながらこれはそういう物語ではない。1979年に発表された今作は、村上春樹のデビュー作でもあるわけだが、「ノルウェイの森」とは発表で8年程の開きがある。だからなのか、それともデビュー作だからなのか、何やらフワフワしていて地に足が付いていないのだ。

最初のグダグダな書き出しもそうだし、物語に入ってからも一体どこの話なの?って感じだし、その空気感は終始一貫して変わる事はない。基本的に地名は出て来ないが日本である事は明示される。でも行間から感じるのは“無国籍”感だ。登場人物たちもわざと名前を明らかにせず、僕、鼠、ジェイ、はては“左手の指が4本しかない女の子”である。そこまでするのに舞台が日本なのが不思議だ。

架空の街、架空の国(もしくは米国ロサンゼルスとか・・・)が舞台だったら、多分これほど地に足の付かない感じではなかったと思う。これだけ無国籍でその上日本だから、受け手としてはどう考えたらいいのか分からなくなってしまうのだ。

そして非常にペダンチックな部分がそれを補強する。ワタシが知らんだけかもしれないけど(笑)、音楽、文学の知識をひけらかすような衒学的な記述がそこここにある。ただ、それが表層的な内容に終始しているので、物語が理解出来なくなったりする訳ではないのが救いだが・・・・。ただそれってつまるところ“ファッション的”な扱いを出ていないという事。雰囲気づくりのツールな訳だ。

そういった事で全体的な印象がとにかく軽い。話もぶつ切りのエピソードの積み重ねだし、終わりも有って無いような感じだし、前後も締まらないダラダラな感じだしw記憶に残るエモーションも登場人物も場面もあまりない。

この感じは1970年代には新しかったのだろうが、そういったものの集大成みたいだったwバブル期を過ごして来た我々には今や何の感慨も与えない。という事で残念ながら今となってはあまりお勧め出来る本ではないと思う。

ただ、青春三部作の一冊目という位置づけなのが難しいところなんだよなぁ(笑)。


風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/07
  • メディア: 文庫

タグ:村上春樹
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tomoart

>タッチおじさんさん
nice!ありがとうございますその3w この後、「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」と青春三部作をレビューする予定ですんで、そちらもヨロシクです。
by tomoart (2011-01-20 10:53) 

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