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トゥモロー・ワールド [洋画レビュー]

Children_of_men_ver4.jpgトゥモロー・ワールド(監督:アルフォンソ・キュアロン)

近くの劇場のラスト上映に駆けつけて、何とか観た。

原因不明の人類全体の不妊で子供が生まれなくなって18年が経った西暦2027年。官僚であるセオ(クライヴ・オーウェン)は、自分も過去に所属していた武装集団フィッシュのリーダーである元妻(ジュリアン・ムーア)に再会。ある少女(クレア=ホープ・アシティー)を海岸まで送り届けて欲しいと頼まれる。その少女はなんと、妊娠していたのだ!そこからフィッシュ、警察双方からの逃避行が始まった・・・・

自分でも感想を図りかねていたので Yahooのユーザーレビューを読んでみてよく分かったのだが、この映画、前に「Vフォー・ヴェンデッタ」の項でも書いた「予告編で騙されてしまう」たぐいの映画だったのだ。

予告編を観ると、この映画なんだか『SF超大作』みたいな印象を受けてしまう(「ハリポタ3」のアルフォンソ・キュアロン監督だし)が、まっったく違う!この映画は『人間の愚かさ』と『命の尊さ』を訴えかける。
冒頭の、最も若い人類が殺されたというニュースから始まり、爆破テロで主人公が死にかける。その後も主人公の親しい人たち、力を貸してくれた人たちが次々と死ぬ。内戦状態に陥ってからは、そこら中のモブ達が、画面の端々で流れ弾に当たってどんどん死んでいく。そこで描かれるのは、余りにも理不尽な『人間の愚かさ』。
そして新たな命を、その愚かな人間達の目の前に現出させることで、そんな愚かな人間達をも豹変させてしまう『命の尊さ』をより輝かせてみせる。

別の角度から考えるに、この作品は新たな「キリストの降誕」を描いているのではないだろうか。ワタシもキリスト教に詳しい訳ではないので分からないが、処女懐胎を臭わすような会話が出て来たり、厩なみの簡素な部屋で本当の父親ではない男の手で赤ん坊が受け取られたり、また人々の間を通って行く時の情景なども含め、全体の印象がキリストを想起させる。

キュアロン監督お得意のグレイッシュな映像は、スタイリッシュであると共に厭世観を強調する役目も果たしている。この厭世観、ディストピア的な描写が特にキモで、これを受け入れられないと全てが拒否反応を示してしまうことになる。ワタシは結構大丈夫だったので、この作品全体をそこそこ楽しめた。

Yahooのレビューで切って捨てるような感想を書いている人たちは、完全に予告編からハリウッド大作を期待して行った人たちのようだ。(例えば「アイランド」「アイ,ロボット」のような近未来アクション作品と勘違いしやすかったのではないだろうか。)しかも、日頃からそういう大作しか観ていないような、ライトなユーザだ。文芸大作みたいなモノは退屈だし、メッセージ性の強い作品は説教臭い、というイメージだけで拒否反応を示してしまう、ある意味一番のボリュームゾーン。
そこを無理矢理動員して興行収入を増やすという目的からすれば、この作品の予告編は成功したと言える。
しかし、それによる今後の映画産業に与える損失を思うと、映画会社自らが首を締めているとしか思えない。やはり作品にあったターゲットをしっかり動員するような考え方に改めて欲しいと切に願う。
一例としてあげればタイトルは、原題の「The Children of Men(人類の子供たち)」の方が、「トゥモロー・ワールド」というタイトルより余程内容に即していたのではないだろうか。

「トゥモロー・ワールド」公式サイト
http://www.tomorrow-world.com

〈追記〉DVD発売ですよ〜w
トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション

トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2007/03/21
  • メディア: DVD

こちら原作本ですが、だいぶ映画とは違う上に更にハードらしいのでお気をつけ下さい(爆)。
トゥモロー・ワールド

トゥモロー・ワールド

  • 作者: P.D. ジェイムズ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 文庫

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コメント 4

ken

この邦題も酷かったですね。
僕はこの作品、絶賛している評論家がいたので、気になっていたのです。
勝手に期待して、それでこき下ろす人たちの話はどうでもいいです(笑)。
それこそここで描かれている「人間の愚かさ」を地で行くような感じですかね?
by ken (2007-08-26 00:56) 

tomoart

>kenさん
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます。
日本では平易な英単語が本当の意味以外のニュアンスを持ってしまっていますよね。『明日の世界』と『トゥモロー・ワールド』の間には広大なニュアンス差が広がっている感じがしますw 考えてみればトゥモローもワールドも、映画の題名はもちろん、曲のタイトルとしてもお店の名前にも非常にポピュラーな単語。そういった割とお手軽でカッコつけ的な言葉で表現する内容ではなかったですね。
銃撃シーンの長回しも興味深かったですが、ワタシはやはり赤ん坊が戦場の真っただ中を運ばれて行くシーンが印象に残ってますね。そして赤ん坊が通り過ぎた途端に激しい銃撃戦が再開されるところに一種のおかしさと余りにも深い人間の“業”を感じました。
by tomoart (2007-08-26 02:47) 

クリス

私もまったく同感ですね(kenさんの所から過去記事に辿り着きました~)。
ポーランドの人が長距離バスに乗ってやってくるのは、けっこう私がイギリスにいた頃は普通にいたように思います。安い賃金を安いと思わず、長時間労働させられてる人も多かったし。
この映画は、新しい視点やアイデアを供給してくれたのみならず、ストーリーや視覚的にも楽しませてくれ、良かったと思います。
by クリス (2007-09-09 10:27) 

tomoart

>蟻銀さん
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます。
アルフォンソ・キュアロンという監督も、寡作でありながらいろいろな種類の作品を作っていますよね。なんでハリポタの監督に指名されたのかもよく分かりませんがwそれでいて作った作品がハリポタ中でも一番デキが良いと言われている訳ですから不思議です。次作もちょっと楽しみな監督です。
by tomoart (2007-09-09 22:33) 

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